読み終えるまでの目安: 5分
目次
どんな人におすすめ?
2023年4月時点で、おすすめ度は今まで読んだ本の中でトップである
もっと早くこの本に出会いたかった
この本は以下のような人におすすめしたい
- 「チームで働くのって難しいな」とか「うちの組織がイマイチでさ…」といったことを一度でも思ったことのある人
- 成長し続ける組織を作りたいと考えている人
- 人材育成を担当している人
- アジャイルの思想に関心のある人
本の情報
本書は「ITエンジニア本大賞」にて 2019年の大賞に輝いている
タイトル | エンジニアリング組織論への招待 〜不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング |
著者 | 広木大地 |
発行日 | 2018.02.22 |
読んだ感想
最後までしっかりと読んだが、この本をひとことで表現するのは本当に難しい
私なりにいうならば、「不確実性・不安に向き合うための心構えと方法論を教えてくれる本」だろうか
この本では、以下のような内容が取り上げられている
- 組織の中において、なぜ同じ目的を持って働いている人どうしで対立が起きてしまうのか
- エンジニアリングとは何か
こういったテーマについて、シンプルながらこの上ないほど深い考察がされていた
もはや要約することもかなわない
全体を通して特徴的だと感じたのが、不要な文がほぼない
冗長な説明がないというか、全ての文に価値があるという感じで、知の密度が凄まじいことになっている
それゆえ要約するのが困難で、読書メモを書くのに非常に苦労した
「これは私だ、私のことが書いてある」
序盤にて、人の「認知の歪み」について丁寧に解説されている
たとえば、
- 一般化のしすぎ
少ない事例をあたかも全てがそうであるかのように決めつけてしまう - 選択的注目
一度「そうなのだ」と思い込むと、それを裏付けるような情報を好んで見つけてしまう - 感情の理由づけ
感情が先行していることに気づかず、後付けでそれらしい理屈を並べる
「あの人は目的意識が低い」といった発言を解きほぐしていくと、実はその人に不愉快な思いをさせられて嫌いになっただけだった、とか
といったものだ
読んでいて「私です」「ごめんなさい」と思わずにはいられないほど身近なテーマだ
ページをめくる度に自分の未熟さに気付かされる強烈な体験だった
おそらく、ここで多くの読者が人の意識に潜在する課題を掴み、中盤以降も納得感をもって読み進められることと思う
また、この解説の後、これら認知の歪みを踏まえて「メンタリング」といった話題につながっていく
メンタリングのテクニックについても具に語られており、人材育成を担当する人にも大いに参考になると思う
組織の中で起こりがちな問題の原因・解決方法が見事に分析されている
多くの人は、企業の中で以下のような状況を見たことがあるのではないだろうか
- 経営層とエンジニアの対立
- 同じチームのはずなのに、一方が他方の機嫌を損ねないよう、腫れ物に触るように扱っている
筆者は、こういった問題の原因は「情報の非対称性」とそれによって生じる「限定合理性」であると解説していた
おもしろいことに、多くの問題がこの「情報の非対称性」を起点に紐解けている
それが筆者の一貫した姿勢に説得力をもたせていると感じる
アジャイルの歴史が詳細に解説されている
さらに、本書の大きな特徴のひとつとして、アジャイルの思想をしっかりと解説しているという点も挙げられる
読んでいると、アジャイルの思想が本書のテーマである「不確実性に向き合う」ために重要であることがわかる
具体的には、
- なぜアジャイルという考え方が生まれたのか
- その時代背景としてどういうものがあったのか
- ありがちな誤解
- ウォーターフォールと敵対する考え方なのか
- アジャイル開発プロセスを導入すればアジャイルなチームになるのか
といったことが論じられている
まとめ
まとめると、この本には以下のような特徴があった
- 「エンジニアリングとは何か」という問いに対して、筆者なりの哲学が強い説得力で展開される
- 組織の中で起こりがちな問題を紐解き、本質的に解決するための方法論が書かれている
- 次のようなテーマについて網羅的に解説されている
- 人の意識に潜在する「認知の歪み」
- メンタリングの概論
- アジャイルの歴史やありがちな誤解など
私は本書を通して、完全にエンジニアリング組織論に「招待」されてしまった
エンジニア・マネージャーに限らず、組織の中で苦労している人にこそ読んでみてほしい