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目次
概要
2022年の 4月から 5月にかけて、プログラミングを主題としたハンズオン研修のカリキュラムを作り、実際に運営するという仕事を経験しました
いろいろ学びがあったので、私なりに全体の進め方をまとめてみます
なるべく汎用性の高い情報を目指しますが、活用される際は講座の目的や内容などによって適宜アレンジしてくださいね
ちなみに、この解説は実際に困っている人を丁寧にサポートする気持ちで書くので、何から始めるかや何を気にすればいいのかなど、基本から取り上げるつもりです
なので、多くの方からすると冗長に思えるかもしれませんね
また、対象読者も結構広くなるように書いたつもりです
「ハンズオン研修」「ワークショップ」といった言葉がどんなものを指すのかをイメージできるようであれば、それで十分だと思います
ただ、プログラミング系の話題を例に出しているところがあるので、その知識がないとピンと来ない箇所はあるかもしれません
ここでの解説が今まさに運営で困っている人に届くとは限りませんが、いつか誰かの役に立てば嬉しいです
というか、私自身ワークショップの運営を経験できて本当によかったので、これを読んで誰か 1人でも「私も研修の主催とかやってみようかな…」と思ってくれたらいいなって感じです
なお、解説は今回を含めて 3つの記事に分けてまとめます
- 準備編
- 当日編
- 後日編
まずは最初にして最も長い準備編です
前提条件
- 特定の会場に集合しておこなう研修を想定する
- 講義だけでなく、受講者による実践を取り入れた研修とする
- 1日で完結する研修とする
運営のモチベーション
まず、どういう思いで運営をしましょうかという話です
当然、思想やモチベーションなどは人それぞれであり、個人の自由です
私なりの考え方を書いておきますが、これはあくまでサンプルの 1つとして受け取ってください
さて、研修の大きな目的はというと、受講者に何かを学んでもらうことですね
ワークショップだと交流・コミュニティの活性化あたりが主題になるかもしれませんね
これらは、「受講者に対して特定の体験を提供する事業である」という見方ができます
これから説明するプロセスは、プロダクト開発とかマーケティングなんかと通ずるところがたくさんあるので、1つの事業を立ち上げると考えるといいかもしれません
また、研修は基本的に講師が受講者に何かを教える形になると思いますが、一方的に与えるだけというわけでもなく、運営・講師側にも多くの学びがあると思います
特に初めて主催する人にとっては、事前に最適なカリキュラムを考え、当日は状況に応じてアドリブを利かせ、最後に受講者からフィードバックをもらう…という経験で大きく成長できるはずです
つまり、運営をするにあたっては
- 受講者の学びや楽しさなど、ポジティブな効果を最大化する
- その一連の体験を提供するプロセスを通して、自分自身も成長する
こういったモチベーションを持つといいのかなと考えています
全体の流れ
ハンズオン研修を開催するにあたっては、以下のようなプロセスがあると思っています
- 準備
- コンセプトの検討
- 受講者層の明確化
- 目標の明確化
- テーマの明確化
- カリキュラムの策定
- 会場の確認・決定
- 資料の作成
- タイムスケジュールの作成
- リハーサル
- 当日の体制の検討
- 受講後アンケートの作成
- 当日
- 設営
- 連絡手段の確立
- 雰囲気づくり
- ハンズオンのサポート
- カリキュラムの調整
- 受講者へのフィードバック
- 受講後アンケートをとる
- 後日
- アンケート結果の集計
- 振り返り
- アウトプットする
改めて見ても長いなあと感じます
それでは、準備にあたる部分を順に解説していきます
準備編
上記の全体の流れからもわかる通り、多くの場合は準備が最も大変だと思います
ただ、大変さに比例して、受講者に喜んでもらえたときの嬉しさも大きくなるはずです
受講者・講師双方にとって大切な投資だと思って、丁寧に進めることをおすすめします
なお、計画というプロセスは取り上げません
つまり、タスクの洗い出し、期限設定や分担などは別途やりましょうということですね
コンセプトの検討
まずは研修のコンセプトを決めます
この研修で何を達成したいのかを整理したうえで、何に重点を置くかを決めましょう
もし誰かの依頼で開催することになったのであれば、依頼主の意向を確認するといいと思います
たとえば「ネットワークの基礎を身につけさせたい」といった要望や、「この人からこういう話を聞いて依頼しました」といった経緯などを聞いておいて、当初の意図と乖離しないようにしましょう
コンセプトは一言にまとめられるシンプルなものがいいと思います
「楽しくフィットネス」とか「チームビルディング」とか…
私の開催したものでは、
- プログラミング系の内容
- 複数人を集めて交流を促す
といった前提条件があったので、「Gitを利用したチーム開発」をコンセプトにしました
ただの「お勉強」ではなく実践的な内容にしたかったので、そういう観点でもこれが適しているだろうと考えました
受講者層の明確化
コンセプトが決まったら、次は受講者の情報を明確にする必要があります
この作業は研修の成否に大きく影響する重要なタスクです
適切なカリキュラムを組み上げるためにも、受講者がどのような属性を持っているのか、どのような状態なのかを知っておきましょう
手軽な手段としてアンケートをおすすめします
知りたい情報を洗い出し、それを質問の形に変えていきましょう
先の「Gitを利用したチーム開発」をコンセプトに据えた場合、Gitの知識やプログラミングの経験などが重要な情報になりそうなので、それらを答えやすい選択肢形式にして回答してもらうという感じでしょうか
目標の明確化
この研修を通して何を達成したいのかを言語化しましょう
- 研修を終えた受講者はどういう状態になるのか
- 講師はどういう状態になるのか
他にもいろいろあるかもしれませんね
定量的な表現が望ましいですが、そこにこだわるかどうかは好みだと思います
この作業は、主催者自身が研修の成果を観測するために重要なタスクです
後々、ここで言語化した目標が達成できたかどうか、受講後アンケートや振り返りなどで明確にすることになります
目標を定量的に設定できていれば、それだけ成果を計測しやすくなりそうですね
テーマの明確化
ここでいう「テーマ」とは、コンセプトを実現するための研修の内容を指します
テーマは人の興味を引くものであればあるほどいいと思います
たとえばチームビルディングをコンセプトに据えたワークショップなら…「互いの好きなものと嫌いなものを予想し合うゲーム」とかですかね
今テキトーに考えたのですが、なんとなく盛り上がりつつ目的を達成できそうな気がしますね
ここでひとつ注意が必要です
テーマは適切な規模・難易度に調整できるものでなければいけません
言い換えるとすれば、「基本編」と「応用編」が思いつくものですね
考えた課題が簡単すぎたり難しすぎたりしたときに、それらをうまく修正できそうな内容を検討しましょう
とはいえ、「人の興味を引く」と「適切な規模・難易度である」という条件を両立するテーマを探すのには時間がかかるかもしれません
苦戦するかもしれないということをあらかじめ認知しておき、期間に余裕をもたせて取り組むといいでしょう
また、仮にテーマが少し難しめだとしても、サポートを手厚くすることで、ある程度は緩和できると思われます
納得できるテーマを探し続けるか、サポートでカバーするか、好みに応じて判断しましょう
カリキュラムの策定
テーマが決まったら、いよいよ本格的にカリキュラムを考える段階です
何を解説し、何を実践してもらうか、どのような順序で進めるかを明確にします
事前に受講者へのアンケートをとったのであれば、そこで得られた情報を検討材料にしましょう
ここで、カリキュラムの範囲は適切に絞ることを推奨します
あれもこれもと詰め込みすぎると、準備が大変になったり当日に時間が足りなくなったりしがちですし、そもそも受講者が理解しきれないおそれがありますね
カリキュラムに関する具体的なアドバイスをいくつか記載しておきます
適宜参考にしてください
- 振り返りを取り入れる
カリキュラムの中で振り返りの時間を設けて、改善の機会を与えるようにしましょう- (必須) 最後の振り返り
その日を振り返って成果・学びをまとめます
時間を設けて、よかったことや反省点などを考えると成長に繋がります - (オプション) 途中での振り返り
実践が一区切りついたところで成果・学びをまとめます
これにより成長の機会が増えるほか、振り返りの結果をすぐに活かして次のタスクに取り組むというカリキュラムを組むこともできますね
- (必須) 最後の振り返り
- 定期的に受講者たちの理解度を揃える
体験型の講座では特に、細かいところの理解をおろそかにしたまま進んでしまうケースが懸念されます
解説を上手く織り交ぜたり、途中での振り返りを取り入れたりするといいのではないでしょうか
回り道のようにも見えますが、後の進行がスムーズになる効果もあります
研修の成果を最大化するためにも、工夫を凝らしてみましょう
この段階でカリキュラムが明確になればなるほど、後の資料作成がスムーズに進みます
また、準備にかかる時間も見積もりやすくなるはずです
未来の自分のためにしっかり考えることを推奨します
会場の確認・決定
当日の会場が決まっていないなら、早めに候補を選定しましょう
そして、決めるにあたっては必要に応じて事前に足を運びましょう
あらかじめ会場が決まっていたとしても、同じように事前に様子を見ておいたほうがいいと思います
当日に起こりそうなトラブルを予防できたり、カリキュラムのヒントが得られたりするかもしれませんね
資料の作成
カリキュラムによっては資料作成がとても大変になると思います
私が開催した際は、以下のような資料が必要でした
- 説明の骨格となる資料
- ツカミ
- 研修内容の説明
- 雑談
- Gitの解説
- サードパーティの解説記事で代用
- プログラミングの課題
- プログラム本体
- 実行・編集する環境
- チームで分担して解く課題 (9つ)
- お役立ちメモ
- チーム開発のプラットフォーム
- Gitリポジトリ
- バックログ・かんばん
- 課題に対応したチケット
これをやるとなると、作業量が多くなりそうですね
メンバーが複数人いるなら適切な単位で分担して、間に合わない・質が低くなってしまうといったリスクを抑えましょう
講義で使う資料の他に、ハンズオンのときに参照するお役立ちメモのようなものも用意するといいと思います
また、資料を作るかどうかは別として、雰囲気を柔らかくしたいならツカミをちゃんと考えることをおすすめします
同様に、途中で雑談・フリートークを挟むとより効果的でしょう
タイムスケジュールの作成
当日の進行をスムーズにするため、タイムスケジュールを考えておくことを推奨します
どのプロセスでどの程度時間をかけるか、バッファは何分設けるかなどを考えておくと、状況を把握しやすくなります
状況が適切に理解できれば、アドリブを利かせて柔軟に対応することができるはずです
たとえば、こんなシナリオが想定できます
- ハンズオンの進捗が芳しくないと気づいた
つまり、カリキュラムのどこかに問題があると思われる - 受講者からの質問をもとに、理解しにくいところを特定できた
- ハンズオンを一時中断し、バッファの時間を使って解説した
- 解説で時間を使ってしまったが、その後の課題はスムーズに進んだ
リハーサル
リハーサルとは、実際にカリキュラムを試してみることです
講義・解説については必須ではないかもしれませんが、 学習系のハンズオンのリハーサルは必須だと思ったほうがいいでしょう
受講者に近い層に協力してもらってテストするのが理想です
これをやっておかないと、カリキュラムの不備に気づかないまま当日を迎えることになります
リハーサルができたら、必要に応じて資料の加筆・修正、タイムスケジュールの見直しなどをおこないましょう
そこまでできたならば、きっと手堅いカリキュラムができていることと思います
当日の体制の検討
この作業は必須ではないかもしれません
研修当日、どのようにハンズオンをサポートするか、メンバーが複数人いるならどのように役割分担するかなどを考えるといいでしょう
その場で起きうる問題についても想定しておくと、より盤石な体制になると思います
もしカリキュラムの難易度が高いかもしれないという不安があるなら、当日のサポートを手厚くしましょう
受講後アンケートの作成
研修の成果を可視化するために、受講後アンケートを作っておきましょう
当日その場で回答してもらうためにも、事前に用意しておくことを推奨します
アンケートを作るうえで注意すべきことを以下に示します
- 正直に回答してもらいたいという意思をしっかり示す
アンケートを取るのは今後の改善のためであり、優しい意見でなく正直な意見が必要だと伝えましょう
特別な理由がなければ匿名のアンケートにすることをおすすめします - 目標に対する達成度がわかるように質問・回答を作る
- 回答者ごとにスキルレベルを区別できるようにする
事前知識のあった人となかった人とでどのように回答が変わるのかがわかると、カリキュラムの妥当性を評価しやすくなります
今回限りでなく、別のテーマでの開催も計画しているといったことがあれば、今後の検討に役立つ質問も設けるとよさそうですね
まとめ
これで準備編の解説は終了です
おつかれさまでした
このページでは、「受講者に最適な研修を提供しつつ、ついでに自分たちも成長しようと思って準備を進めるなら、こんな感じになるよね」という私なりの考えを書いてきました
ただでさえたくさんあるプロセスを丁寧に解説しようとしたせいで、かなり長くなってしまいましたね
次回の当日編はもっと短くまとまると思います
今回の内容が参考になったという方は、次回も読んでやってくださいね