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目次
この本はどんな人におすすめ?
- 「目の前のことに精一杯で、気がついたら 1ヶ月経っていた…」みたいな人
- 健全に機能し、成長し続けるチームを作りたいマネージャ
- 中間管理職の仕事とは何か、そのヒントを探している人
- 組織を変えるためのヒントを探している人
本の情報
タイトル | ゆとりの法則 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解 |
著者 | トム・デマルコ |
訳者 | 伊豆原 弓 |
発行日 | 2001.11.26 |
読んだ感想
必要なのは “がんばらないこと” だった
筆者の指摘を噛み砕いて表すと「お前らがんばりすぎだぞ」「ゆとりを作れ」ということだった
序盤から展開されるこの主張が、私に最も刺さる話だった
なぜゆとりが大事なのか?
いくつか理由があるが、まずは変化するには余力が必要だから
15パズルの数字を並べ替えられるのはなぜか?
当然、1マスの空きがあるからだ
あれを埋めてしまうとどの数字も動かせず、パズルとして成り立たない
市場の変化は年々激しくなっており、環境に適応しないプロダクトはすぐに淘汰される
また、2024年現在、転職はごく当たり前で、停滞していたり仕事が過密であったり…といった問題を抱えた組織からはすぐに人が離れてしまう
この本が出版されたのは 2001年のようだが、今こそ重要な思想だと思う
ゆとりが大切なもうひとつの理由として、そのほうが早く仕事が終わるからというのもある
リソースを 100%使ったほうが早く仕事が終わりそうに思えるが、実はそうともいえないようだ
たとえば、全ての人材の時間・気力を 100%使っている大企業をイメージしてほしい
大きな組織なので、多くの仕事は自分ひとりでは完結しない
仕事はまず Aさんにお願いされた後、Aさんはその一部を Bさんにお願いし、Bさんもまた Cさんに…と、仕事は複雑なネットワークを通って完遂される
しかし、ここでは全員のリソースが 100%使われているので、新たに仕事を受け入れるゆとりはない
するとどうなるのかというと、お願いされた仕事は後回しにされる
仕事は複雑なネットワークを通るので、後回しにされるのは 1回では済まない
ネットワーク上の遅延はどんどん積み重なっていく
さらに、タスクというのは不可分なものも多いので、とある遅れが別の仕事にも影響を及ぼしてくる
あーあ、ゆとりさえあればすぐにできたのに… 😩 みたいな
まとめると、ゆとりがないと
- 組織が変化できず、市場での競争力を保てない
- むしろ仕事が遅くなる
という話だった
思想を書いたものであり、ハウツーではない
この本では
- ゆとりが大事
- (当時の時代背景もあったのか) 中間管理職は必要ないといわれがちだが、実は組織の要になるポジションである
- 真に重視すべきは効率ではなく効果である
といった含蓄に溢れる内容が書かれているが、基本的にはどれも原則にとどまっており、具体的な手法はあまり解説されない
その点は注意が必要かもしれない
本書の哲学をどう取り入れていくか…
とても悩むポイントだと思う 🤔
ゆとりをつくるためにまず捨てるところから始まる
では、何を捨てるかはどうやって決めるんだろう?
いち従業員だったらタスクをお願いされても「いま余力がなくて…」とかいって多少は制御できるのかもしれないが、チームのマネージャだったらどうするんだろう?
自分にゆとりを作るのとチームにゆとりを作るのとでは、向き合い方がだいぶ違ってくる
無茶な計画を立てないのはもちろんだが、もっと仕組みにしないといけない気がする
まずはこの思想に共感してくれる仲間を見つけて、ひとりでなくみんなで「仕事を手放す」という活動を始めるのかな?
そもそも、それを始めるためのゆとりも作らなきゃいけないし、最初は “気合いでなんとかする” 的な要素が出てきちゃうかも…
うーん難しい
これはこの本だけでは納得できる解を導き出せないなあ
大事なことは前半に詰まっていた印象
最後まで読んだが、私に刺さる内容は前半に寄っていた
後半は読んでもピンとこないところがちらほらあった
なので、最初から最後までというよりは関心の強いところを読むスタイルがおすすめ
ここは個人差があると思うので、この後の要約を参照してもらうといいかもしれない
要約
第1部: ゆとり
- ゆとりは、円滑に仕事を進め、かつ柔軟に対応するために不可欠なリソース
- むだを詰めればいいという話ではない
- 人間は代替可能な部品ではない
- スイッチングコストはどんなに低く見積もっても 15%
第2部: 本当に速く仕事をするには
- プロジェクトの中の見えないコストとして、人材の離職がある
実はこれのせいで大きな損失が出ている
プロジェクトのコストのうち、2番目か 3番目くらいに大きいと推測される - よくある「事務員はムダだ!」という誤解
- たとえば、事務アシスタントのいない 5人の開発チームを考える
- エンジニアたちは相互にアクティブにやりとりするため、コミュニケーションのパスはフルメッシュで計10本になる
- ここで、各自が事務作業に 20%ずつの時間を費やしていたとする
- この場合、このチームに事務員を 1人入れることで、エンジニアを 4人に減らせると考えられる
- エンジニアが 1人減ると、彼らのコミュニケーションパスも計6本に減らすことができ、対話に必要な時間を大きく削れる
- “効率” ではなく “効果” を追求しよう
- 企業どうしの裁判は、どちらも敗者
多くの場合、双方の法廷費用はとんでもなく高いらしい
最終決着で課される金額がかすんで見えるほど…
第3部: 変化と成長
- 組織を建設的に変化させるには、逆に「変わらない/変えないもの」も見据えておくといい
でなければ強い抵抗にあう
筆者は、組織の文化は変化できないものと捉えているもよう - リーダーシップとは、進むべき方向を示したあと、ひたすらにフォローアップをし続けること
- 先に信頼を渡すと、自分も信頼を得やすい
信頼するには少し早いかも?くらいの段階で信頼して任せてみると、与えられた側はほぼ無意識に忠誠を返す
もちろん、多少のリスクはあるので、しかるべき相手・状況を見極めよう - うまくいっているときが変化のチャンス
成功しているタイミングではゆとりがあり、寛容になれる
「変化しなければ」という思いが強まるのは状況が悪化しているときだが、実はうまくいっているときのほうが変化に向いているのではないか - 組織が変化するうえで、要になるのは中間層なのではないか
企業が変わるには中間管理職が最も重要という主張
トップだけがいっていてもしかたないし、かといってボトムにモチベーション・ゆとりがあるとは限らない
その状態を改善できるのは中間層
なので、彼ら中間層にはなおさらゆとり・安全・協調が必要
第4部: リスクとリスク管理
- チャレンジにリスクはつきもの
リスクがない状態って実は大きな成果が見込めない状況なのかも - リスク管理とは、多数の小さな失敗に備えること
何度失敗しても、ゲームの最後に多くチップを持ち帰ればいい - 不確実な要素、できないかもしれないことにこそ目を向ける必要があり、これはとても勇気のいること
結び
まずは、読んでよかった
友人からおすすめされたのだが、この本に出会えてとても幸運だった
なんならもっと早く出会っていればとさえ思う
普段「忙しい」と感じている人たちに、ぜひ前半だけでも読んでほしい
とてもおすすめできる本だった
職場でも紹介してみようっと